開発中のタイラバネクタイを、厚さ0.6・0.8・1.0mm、水との相対速度0.5〜4ノットの条件で計算して比べました。結論から言うと、1ノット以上では厚いほど先端の振れと水を押す力が大きく、1.5ノットでは1.0mmの水を押す力が0.6mmの約1.7倍でした。一方、振動の速さは厚さではほとんど変わらず、ほぼ速度で決まりました。

先に大事な注意を書きます。これは計算の結果で、水槽や海での実測ではありません。魚の反応も調べていません。 同じ形で厚さと速さを変えたときの比較の目安として読んでください。
結論
- 1ノット以上:厚いほど先端の振れが大きい。1.5ノットで0.6mmは約29mm、1.0mmは約35mm
- 水を押す力・引き抵抗:厚いほど大きい。1.5ノットで1.0mmは0.6mmの約1.7倍・約1.6倍
- 振動数:厚さではほぼ変わらず、速いほど上がる。1.0mmは1ノットで4.5Hz、2ノットで8Hz、4ノットで16.5Hz
- 0.5ノット:厚いほど動き出すまでに時間がかかる。ただし、動き出した後の振れは3つとも約31〜33mmで大差なし
きっかけ:淡路島で自作ネクタイが潮に負けた
今年9月、淡路島の遊漁船でのタイラバで、自作ネクタイが二枚潮の中で超高速にひらひらしてしまいました。海面で見比べると、同じ引き速度でも市販の肉厚なネクタイのほうがゆっくり泳いで水をつかんでいて、釣果も市販品のほうが上でした。
このときの自作と市販品は、厚みも長さも素材も違っていました。これでは何が効いたのか切り分けられません。そこで、形を同じにして厚さと速さだけを変える比較を、まず計算でやってみることにしました。
計算の条件
対象は、いま開発している1本テールのカーリー形ネクタイです。

| 項目 | 条件 |
|---|---|
| 形 | 高さ90mm・幅70mmに収まるカーリー形。伸ばした長さ約206mm、最大幅14.2mm |
| 厚さ | 0.6・0.8・1.0mm |
| 素材 | シリコン、硬さショアA40。硬さから換算した弾性率1.7MPa、比重1.15を仮定 |
| 取り付け | 根元を完全に固定 |
| 速さ | ネクタイと水の相対速度0.5〜4ノット(0.26〜2.06m/s) |
| 計算時間 | 各3秒。0.5ノットの0.8mm・1.0mmだけ8秒 |
| 集計 | 動きが落ち着いた後の平均(3秒の計算は1〜3秒、8秒の計算は5〜8秒) |
計算には、無料で使えるPythonのライブラリ「PyElastica」を使いました。細長い弾性体の曲げやねじれを3次元で計算するものです。
渦は計算していません
ここが一番の注意点です。本格的な流体シミュレーション(CFD)は、ネクタイの周りの水の流れそのものを解きます。今回はそこまでやっていません。
ネクタイの各部分にかかる水の力を、向きと速さから近似式で求めて、弾性体の計算に与えています。そのため、ネクタイから出る渦や、渦どうしの影響は入っていません。幅方向の細かい形の違いも拾えません。
結果
表で見る
| 速さ | 厚さ | 先端の振れ | 振動数 | 流れ方向の伸び | 水を押す力の変動 | 引き抵抗 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 0.5ノット | 0.6mm | 31.2mm | 2.5Hz | 149mm | 3.8mN | 9.0mN |
| 0.5ノット | 0.8mm | 33.3mm | 2.7Hz | 140mm | 5.1mN | 12.0mN |
| 0.5ノット | 1.0mm | 32.4mm | 2.7Hz | 133mm | 5.6mN | 14.3mN |
| 1ノット | 0.6mm | 31.4mm | 6.0Hz | 157mm | 12.9mN | 23.1mN |
| 1ノット | 0.8mm | 34.6mm | 4.5Hz | 152mm | 16.9mN | 30.0mN |
| 1ノット | 1.0mm | 37.4mm | 4.5Hz | 147mm | 20.9mN | 36.8mN |
| 1.5ノット | 0.6mm | 28.8mm | 6.5Hz | 162mm | 23.4mN | 40.3mN |
| 1.5ノット | 0.8mm | 32.9mm | 6.0Hz | 157mm | 32.2mN | 51.9mN |
| 1.5ノット | 1.0mm | 35.4mm | 6.0Hz | 154mm | 40.1mN | 62.6mN |
| 2ノット | 0.8mm | 30.6mm | 7.5Hz | 162mm | 50.8mN | 77.1mN |
| 2ノット | 1.0mm | 33.2mm | 8.0Hz | 158mm | 64.3mN | 92.9mN |
| 3ノット | 0.8mm | 26.9mm | 13.0Hz | 168mm | 89.0mN | 135.2mN |
| 3ノット | 1.0mm | 29.9mm | 13.0Hz | 165mm | 110.9mN | 159.1mN |
| 4ノット | 1.0mm | 27.6mm | 16.5Hz | 168mm | 159.2mN | 236.3mN |
言葉の意味は次のとおりです。
- 先端の振れ:流れの正面から見て、先端が平均の位置からどれだけ離れているか(平均半径)
- 水を押す力の変動:ネクタイが水から受ける横向きの力の揺れ。魚の側線への刺激の目安として記録しましたが、魚が感じる量を測ったものではありません
- 引き抵抗:100mNが約10gfです。1.5ノットの1.0mmで約6.4gfでした
0.6mmの2ノット以上と、0.8mmの4ノットが表にないのは、計算が途中で破綻した(発散した)ためです。薄いほど破綻しやすい傾向がありました。数値の減衰を10倍に増やせば4ノットまで計算できましたが、振れと力を小さめに出すので、上の表には混ぜていません。減衰10倍どうしの比較でも、1.5ノット以上では「厚いほど振れと力が大きい」という並びは同じでした。

厚いほど水を押すが、引き抵抗も増える
1.5ノットで0.6mmと1.0mmを比べると、数字は次のとおりです。
| 1.5ノット | 0.6mm | 1.0mm | 比 |
|---|---|---|---|
| 先端の振れ | 28.8mm | 35.4mm | 約1.2倍 |
| 水を押す力の変動 | 23.4mN | 40.1mN | 約1.7倍 |
| 引き抵抗 | 40.3mN | 62.6mN | 約1.6倍 |
厚いほど大きく動いて水を押しますが、その分だけ引き抵抗も増えます。
振動数は厚さでなく速さで決まる
同じ速さなら、振動数は厚さでほとんど変わりませんでした。2ノットは7.5Hzと8Hz、3ノットはどちらも13Hzです。1ノットの0.6mmだけ6Hzと高めですが、この条件は動きの規則性が低く、はっきりした差とは言えません。
一方、速さには素直に反応し、速くなるほど振動数が上がりました。また、速くなるほどテールはまっすぐ伸び、先端の振れは少しずつ小さくなります。
遅い潮:厚いほど動き出しが遅い
0.5ノットでは、流れを当て始めてから動き出すまでの時間に差が出ました。0.6mmは1秒弱、0.8mmは約2.5秒、1.0mmは約4秒です。厚いほど巻いた形を保つ力が強く、それまではカールしたままでした。

動き出した後は、3つとも先端の振れ約31〜33mm、約2.5〜2.7Hzで大きくは変わりません。流れ方向の伸びは、0.6mmの149mmに対して1.0mmは133mmと、厚いほど短くなりました。
なお、動き出しの秒数は計算の初期のわずかな乱れにも左右されるので、「厚いほど遅い」という順番までの目安と考えています。実際のネクタイは、静止した状態から急に流れを受けるわけではありません。
失敗:最初は「1.0mmは0.5ノットで動かない」と判断していた
最初の計算はどの条件も3秒でした。3秒の間、1.0mmの0.5ノットはカールしたままだったので、「1.0mmは遅い潮では動かない」と結論づけていました。
ただ、別の計算で、0.3m/sで約3秒たってから急に振れ始めた例があったことが気になりました。そこで8秒まで延ばしたところ、約4秒で動き出し、その後は振れ続けました。3秒で止まっていたのは、計算時間が足りなかっただけです。
計算は、時間が足りなくてもきれいな図が出ます。今回は、すべての条件で動きが落ち着いているかを確認し直しました。影響があったのは0.5ノットの0.8mmと1.0mmだけで、1ノット以上の結果は変わりませんでした。
実釣の印象と合っていたこと、合わなかったこと
合っていたこと:厚いほうが水を押す力が大きいという結果は、「肉厚なネクタイのほうが水をつかんでいた」という印象と同じ向きです。私は過去に、二枚潮の日に0.5mm厚のWカーリーから厚さ1mmで長めのシングルカーリーに替えて、釣れ出した経験もあります。ただし、この時も形や長さが同時に変わっており、1回の結果で決めつけることはできません。
合わなかったこと:「薄いと超高速でひらひらする」という見た目は、今回の計算では再現できませんでした。1.5ノットで0.6mmが6.5Hz、1.0mmが6Hzと、ほぼ同じです。渦が入っていないせいか、厚さ以外の違いが効いていたのか、この計算だけでは分かりません。
以前のネクタイ選びを流体力学から考えた記事では、単純な梁の式をもとに「厚みを上げると固有振動数が上がる」と書きました。今回の計算では、振動数は厚さよりも流れの速さで決まっていました。水流に押されて動く状態では、固有振動数の式だけでは説明できないのかもしれません。これも今回のモデルの範囲での話で、実測では確かめていません。
先端を尖らせるとどうなるか
1.0mmで、先端の最後の10mmを幅2.5mmから点まで細くした形も計算しました。1ノット以上で比べると、先端の振れ・流れ方向の伸び・引き抵抗はほぼ同じで、先端の速さが5〜12%上がりました。
ただ、計算の刻みが約2mmなので、10mmの先細りは5区間でしか表せていません。先端から出る細かい渦も入っていないので、参考程度の結果です。
この計算で分からないこと
- 振幅や振動数の絶対値:実物と合わせ込んでいません。正しいと言えるのは、今のところ同じ条件どうしの比較の目安までです
- 渦の影響:切り欠きや縁の形の効果は、おそらくこちらが主で、このモデルでは見えません
- 釣果:計算しているのはネクタイの動きだけです。魚がどの動きを好むかは分かりません
- 実際の取り付け:根元は完全固定にしています。実際のネクタイはヘッドと一緒に動きます
- ノットの読み替え:ここでの速さはネクタイと水の相対速度です。潮と巻きの速さをどう足すかは、当日の状況によります
この形はまだ製品ではなく、抜き型を準備している段階です。当面、水槽での実測の予定はないので、ここでの数字はあくまで計算上の目安として読んでください。
まとめ
- 同じ形なら、1ノット以上では厚いほど振れと水を押す力が大きく、引き抵抗も増える(計算上)
- 振動数は厚さではほとんど変わらず、速さで決まる(計算上)
- 遅い潮では厚いほど動き出しが遅い。動き出した後の振れに大差はない(計算上)
- どれも実測前の数字。渦を含まない簡易モデルの範囲での話
形を決めるまでの経緯は、ネクタイの形の特許を調べた記事にまとめています。実物で比べた記録としては、アシストフックを自作して市販品と比べた記事もあります。
販売中のタイラバネクタイとアシストフックは、M.F.WORKSのショップに置いています。今回計算した形とは別の製品です。
